黒川モデルハウス/遠藤英雄

黒川モデルハウス/遠藤英雄

住友林業

フラットキャノピーが生み出す重心の低さと軽やかさが、新鮮な驚きをもたらす

2018年4月28日にリニューアルオープンした、「黒川展示場」モデルハウス。薄く、深い軒(フラットキャノピー)が印象的なフォルムは、どの角度からも美しい表情を見せてくれる。これまでの木造住宅のイメージを一新するスタイリッシュなスタイルは、どのような発想で生まれたのか。その答えとこだわりを、建築士である遠藤英雄氏に伺った。

「木造住宅と聞けば、四角の箱に三角の屋根が乗っている家をイメージする方がほとんどだと思います。でも当社が独自開発した「ビッグフレーム構法」を活用すれば、これまでにない開放的で伸びやかな家をつくることができます。黒川モデルハウスを設計するにあたり、固定概念に捉われず、“進化した木造住宅”を生み出そうと考えました」。
フラットキャノピーにより、水平ラインが強調された外観は、フラットルーフ(※1)と相まって重心の低さ、軽やかさを感じさせてくれる。そこに7.2mもの大開口のあずまや(※2)兼ガレージがつながることで奥行き感が生まれ、住まい全体にゆとりが感じられるのだ。

「フラットキャノピーのラインと壁の白さが際立つように、その他の部分は黒にしてメリハリをつけました。また一部の壁には目地幅を広く取ったタイルを採用し、レンガのような素材感が出るように工夫しています。外観はモダンさを感じさせる一方、室内は和の要素を採り入れたデザインに仕上げました。もちろん和に偏りすぎないように、現代の生活様式やトレンドに合う和室とリビングとの調和にはこだわっています」と遠藤氏。

「和室の障子には鴨居(※3)がつきものですが、そのラインをできる限り長く、水平に取ることを心がけています。さらに黒川モデルハウスでは、鴨居と天井に貼った木を馴染ませることで、伝統美とモダンさを併せ持つ空間に仕立てあげました。チークの床との相性もよく、洋の空間であるリビングとの親和性も高い空間デザインだと感じています」。

機能性の高い生活動線とプライバシーに配慮した空間レイアウト

空間設計の中で、特に力を入れたのが生活動線だと遠藤氏は語る。通常、家を設計する場合、玄関からリビング、ダイニング、そしてキッチンとつなげていくのがオーソドックスなスタイルだが、黒川モデルハウスは入り口を2wayにし、実際の暮らしに沿った便利な動線を提案している。

「奥様がお買い物から帰ってきてガレージに車を止める。そこから荷物をいかにスムーズに、楽に運ぶことができるかを考え、設計しました。ガレージのすぐ横に勝手口を設け、キッチンに直接アクセスできるレイアウトを採用することにしたのです。その動線の途中にパントリー(※4)や冷蔵庫を置けば、収納・片付けも楽になります。一方で、玄関からリビングに向かう際は、キッチンが視界に入らないように配慮。気兼ねなくお客様をお招きできる工夫を凝らしています」。

外の景色が飛び込んでくるかのような明るく開放的なリビングは、これもビッグフレーム構法ならではのもの。コーナー開口を採用することで、より伸びやかさが感じられる。
「一般的な木造住宅ですと要所要所に壁を入れないと耐力壁が取れませんが、ビッグフレーム構法ならこのような大開口を実現することができます。また空間の幅も通常、4.55mのところを5mにしていますので、ゆとりと落ち着きが感じられると思います」と遠藤氏。

オープン以来、これまで以上に来場者が増え、「とても格好いい」という声をよく耳にするようになったそう。お客様もきっと木造住宅に対するイメージが変わったことだろう。テクノロジーが進化し、木造の可能性が広がっていく中、「木をもっと使っていきたい」と語る遠藤氏。建築士としての挑戦は、これからも続いていく。

※1:勾配が少なく、水平に近い屋根のこと。陸屋根ともいう
※2:壁がなく、柱だけの小屋。主に庭園などに眺望や休憩の目的のために設けられた簡素な建屋のこと
※3:襖や障子などの建具を立て込む、出入り口などの上の溝のある横木
※4:食品や食器類を収納するキッチンの一部、あるいは隣接した小部屋のこと

Designer

技術商品開発部 デザインチーム 遠藤英雄

住友林業 遠藤

デザインコンペにて最優秀賞を獲得。その高いデザイン・設計力が評価され、建築デザイン室を経て、技術商品開発部・デザインチームへ配属となる。
設計をするうえで大切にしていることは、お客様の思いをしっかりと聞きだすこと。決して自分よがりな提案になることなく、要望をできる限り実現するアイデアを組み入れることに注力している。モダニズム建築の旗手、谷口吉生(たにぐち よしお)氏や堀部安嗣(ほりべ やすし)氏に大きな影響を受ける。

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