アウトドアリビングが2つある家/荒川圭史

アウトドアリビングが2つある家/荒川圭史

HEBEL HAUS

スケッチブックを使いながら、現地調査でイメージを膨らませていく

荒川氏のデザイン力の噂を聞きつけ、相談にやってきたご夫婦。特に強い要望はなく、「とにかく格好いい家をデザインして欲しい」という、かなり漠然としたものだった。しかし、ひとつだけ気にかかる点があったそうだ。それは、これまでずっとマンションにお住まいだったことによる、リビング空間を1階に持ってくることへの不安。1階は陽当たりがよくなく、眺望もよくない。さらに周囲からの視線も入ってくる。そんな印象を強くお持ちだったと荒川氏は振り返る。

「現地調査に出かけて分かったのですが、西側に大きな児童公園があるのです。そこには大きな欅などの樹木が立っていて、借景としては申し分ない。でも、人通りは少なくないし、遊具も見える。そこでここに高めの壁を設け、緑と光だけを切り取れないかと考えたのです」。そこで手にしたのがスケッチブック。スケッチブックで仮想の塀をつくり、写真に収めてみた。すると、

現地でスケッチブックで塀をつくってみました。

「なかなかいい感じなのです(笑)。よし、ここに空と樹木だけが見える庭をつくろう、と思いました。しかし、オーナーは2階リビングがいいと思われていますし、屋内ガレージも希望されています。この土地は建ぺい率50%で、屋内にガレージを計画すると50%の土地が完全に残地として残る計算となります。この50%、約50坪の土地をどう生かすか。それが設計する上での大きなポイントとなりました」。

そこで荒川氏は、2つの案を用意した。一つは2階に主空間・外部空間をリフトアップするもの。もうひとつが、1階に主空間を置き、外部空間も1階で存分に楽しもうというプランだ。いずれも自信があったそうだが、

「2つの案を示しながらも、リビングは2階と言う先入観を一旦外して考えれば、意外と心地いい空間ですよということをお伝えすることにしました。先入観だけで判断するのはもったいない話ですからね。もちろんオーナーのご要望は重視しますが、デザイナーとして気づかれていない価値を分かりやすく解説するのも役目ですから。そういった会話も、私は大事にしています」。

道路の向こう側に公園があり、比較的大きな樹木も生えていて、うまく生かせばよい環境です。

近・遠景の樹木を重ねることで森を演出。あたたかな光の中に幸せが広がる

そして採用されたのが、現地調査時に発想した、1階に主空間・外部空間をゾーニングするプラン。敷地を大きく6ブロックに分け、南側の中央部にリビングルーム、その両脇にほぼ同じ大きさの庭=「外の部屋(アウトドアリビング)」を設けるというものだった。

「残地をそのまま庭にしても、もったいないと考えました。外空間ではあるものの、家族はもちろん、ゲストもくつろげる第2のリビングとして活用することを頭に描いたのです」と荒川氏。

「そこで、デッキには耐久性が非常に高いaccoya材を用い、東側の庭にはパラソルも用意しました。ここでお茶やバーベキューなども楽しめるようにと、流しも据え付けています。一方、西側の庭には高さ8mのヒメシャラの木を植え、周囲の樹木と併せて見上げると、まるで林の中に身をゆだねているかのような心地よさが生まれます。ちなみに、児童公園の樹木とヒメシャラとは距離がありますが、このように近・遠景の樹木を重ねると、林や森のような雰囲気が感じられるのです。どちらも2550㎜の塀で囲み、しっかりとプライバシーは確保しながら、空を美しく切り取っています」。

アウトドアダイニング→リビング→アウトドアリビングと、外部と内部の空間がつながる設計は、敷地条件を逆手にとって生み出した、暮らしに楽しさをもたらすユニークなスタイル。リビングの南側は隣地に寄るため、上部は吹き抜けにし、直射光を奥まで届ける断面計画を採用。2階はマスターベッドルームに子ども部屋。そして家族で汗を流したいという思いから、特別に設計された大きなバスルームが用意されている。

「完成してお住まいになり、とても喜んでいただいています。時に東西のアウトドアリビングは、大活躍しているそう。自然光に包まれた、端から端までつながった“部屋”は、子どもたちのお気に入りなのだとか。そのうち庭と庭を結んでキャッチボールするんじゃないかと笑っておられましたよ」。

Designer

一級建築士・デザイナー 荒川圭史

「なんだか心地いい、という皮膚感覚を住まいの形にすること」   

設計やデザインは、どうしても目から入ってくる情報が多くなるものです。もちろん住まいづくりにおいて、見た目の美しさは追求します。でも、私が本当に大事にしているのは「五感」。特に触覚、つまり皮膚感覚ですね。「この空間にいると、なんだか心地いい」という感覚。それを実現するための方策を考え抜くことが、私の設計思想です。どこから、どのように光が入ってくるのかを検証したり、周辺環境を調べたりする中で、得られた情報が重なり合い、ひとつの解となって現れる瞬間。そのときに新たなプランが生み出されます。

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