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Review | 名建築を訪ねて 建築家・新堀和巳の考察
CASE.14 猪熊弦一郎現代美術館 設計:谷口吉生

素材、構造に徹底的にこだわり、デザインを追求
モダニズム建築に見る、美への探究心

今回は、香川県丸亀市にある、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館をご紹介します。JR丸亀駅前広場に面した場所に建てられた「公共建築百選」にも選ばれた秀作です。設計は谷口吉生先生。モダニズム建築の美しさ、アイデアが集約された建物となっています。谷口氏の徹底したこだわりがそこかしこに見られ、建築物としてどのようにデザインを捉え、考えればいいのかといった問いに、大いにヒントを与えてくれる作品のひとつだと思います。

【前庭とファサード、天空テラスへ続く階段空間】
環境

建物に対してステージをつくり、
抜けを生み出してデザインを成立させる

谷口吉生先生がつくる美術館は、必ずといっていいほど前庭をアプローチの景色として捉え、その庭を回遊しながら動線をつくっていくことが多いのです。この美術館の場合は、ランドスケープアーキテクトの第一人者であるピーター・ウォーカーが手掛けている小さな駅前広場を、美術館の前庭としてのアプローチとしてつくりあげたようです。

対して基壇として、その前庭に並んでいるフラットな床=ステージをエントランスとして設えられているデザインは、ミース・ファン・デル・ローエの大地(環境)と建築との関係性と似ている気がします。

周囲の環境と建築の間に「間(ま)」をつくることで、建築がどんな環境であっても成り立っているカタチにしています。広大な敷地につくることが難しい現代では、理にかなった手法ではないでしょうか。

話を戻すと、駅前広場が前庭になっており、そして美術館の入り口を猪熊弦一郎の絵で飾ることで開放ファサードをゲートのようなデザインとしてつくっています。正面左の階段はまっすぐ屋上へと視線をつくりながら、それとは別に小さな扉が美術館への入り口となっている動線が、空間の面白さをつくり、回遊性とは違う意識の展開を構成しています。

【天井パネルや象嵌、テラゾーによる絵画表現】
見切り 環境 素材

建築技術の細部におけるこだわりと
素材の組み合わせにより、上質さが生まれる

正面から見るとよく分かりますが、これだけ柱がなくて、シンプルかつ大きな建物をつくることは、さまざまな見えない部分の工夫をしなければなりません。猪熊弦一郎現代美術館の構造設計は木村俊彦先生ですが、このフレームをつくるに際しては、いろいろとご検討されていたのではないでしょうか。もうひとつ見逃せないのが、天井パネルのディテールです。この大きなパネルを、ビスを見せずにシンプルな容姿で取り付けています。下地を乾式でアタッチメントにして、金物で取り付けられているものと思います。この見えない部分の下地までデザインされているから美しい仕上がりと、そこからの全体が生まれてくるのです。

美術館の側面の壁は、イギリス産の分厚いスレート石が貼ってあります。先ほどの天井パネルにも通じるところですが、ここもほとんど目地がないようにつくられています。ものとものとを接合するための「見切」がラインをどのように美しく見せるかに気を遣われている谷口先生は、こういう石目地でもシンプルに見せています。

正面の絵画ですが、石を砕いて固める人造大理石(テラゾーとは少し異なります)で構成されています。いわゆる象嵌というものですね。もしこれをプリント技術で表現してしまっては、そこには素材感がなくなるため単純なグラフィックとなり、建築のエレメントとしては成立しなくなります。模様そのものを石という素材でつくっていることが、最終的に人の意識に届くものとなるのです。

【天空テラス、オーソドックスな素材の使い方】
環境 素材

動線の中に自然を感じる空間を
用意することで、やすらぎを演出

屋上広場の壁にある滝は、美術館の作品を見て歩く回遊式動線の句読点となっています。美術館の中は、作品を効率的に見て回るために回遊式の動線となっていますが、巡回してきた終わりに、あの滝の水音や空への抜けた空間がパッと現れるわけです。ロマンチックな設えではないでしょうか。美術作品をじっくり鑑賞した後の自然の空と水に、さらに充実さを加える演出です。建築は3次元の演出と、行為を経過させるという時間の演出も加えることで、人にやすらぎを与えることができるものだと考えます。

【薄く軽やかなファサード、数々の本物の素材】
見切り 素材

選び抜かれた数々の素材によって、
建築家の力量と美意識が表現される

ファサードの特徴として、両脇にある袖壁の先端を斜めにし、薄く見せています。このデザインは、大きな建物に対して緊張感を与えることによって生まれる、繊細さの美しさだと考えます。先ほどから述べていますが、この建物にはさまざまな素材が用いられています。素材を用いるということは、それを探して来たり、選ぶのにとても時間がかかります。そこに人の英知がそのまま建築に表れていく奥深さがあるわけです。住まいづくりにおいて、時間をかけて考え抜くことの素晴らしさを理解すれば、きっとよいものができるでしょう。

今の「モダン」が未来で「クラシック」になったときにでも、本物の素材は人を説得することが可能であると信じています。私たち人間は、時の通過点でしかありませんが、素材自体は常に時代とともに存在しているので、その経年変化が自然な美しさになるのです。

新堀 和巳

有限会社新堀和巳建築設計室 代表取締役。一級建築士。渡辺明設計事務所にて活躍後、独立。兵庫県安心住宅設計競技「システム提案部門特別優秀賞」受賞、あたたかな住空間デザインコンペ「LDKリフォーム賞」受賞など、数多くの受賞歴を持つ。住生活が第三の皮膚に相当するというバウビオロギー(建築生物学)をベースに、住まいづくりを進めている。

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