Review | 名建築を訪ねて 建築家・新堀和巳の考察
CASE.13 旧山邑邸 ヨドコウ迎賓館 原設計:フランク・ロイド・ライト

帝国ホテルで採用された大谷石を用いた
重厚さと親近感を感じさせるライトの代表作

今回、ご紹介するのは近代建築の巨匠であるフランク・ロイド・ライトの作品。1918年に、灘の酒造業を営む八代目山邑太左衛門の別邸として設計されたものです。この建物も、かの有名な帝国ホテルで多用された大谷石を用い、旧山邑邸よりも一年早くに設計されたバーンズダール邸(ロサンゼルス)と同じ思想で生み出された建物だと言われています。1974年5月、国の重要文化財建造物に指定された、まさに名建築のひとつです。

【大谷石に刻まれた装飾と縦のデザイン】
見切り 素材

細かで美しい装飾性が目を引く建物
水平から垂直に移行したライトの転換点

旧山邑邸の敷地に入ると、まずアプローチに特徴を見出すことができます。敷地自体のほとんどが斜面(山の尾根部分)であると、やはり道路も斜面であるために、どのレベルから導入するかでアプローチとエントランスが決定されます。この場合は、最も低い斜面の突端までアプローチを引いてきているので、右手に外観側壁を見ながら、ようやく玄関に達します。こうしたアプローチや尾根部に建物を計画すること自体が水平を基本とする日本の様式とは異なり、欧米人ならではの垂直の発想と言えるのではないでしょうか。

大谷石を幾何学模様に装飾された壁や花台、水が流れる仕掛けのある玄関の中央部分など、その装飾性が否応なしに飛び込んできますが、その寸法の細かさに驚かされます。現代建築では装飾の意義を問われて、今ではつくることのできなくなった様式ではないかと感じます。装飾性とスケール感がすべて一致して感じる手法は、ライトならではのものだと分かります。帝国ホテルの設計では、大地に対して水平のプランニングをつくってきましたが、この旧山邑邸では縦のプランニングに挑戦しながら、変革していったのではないでしょうか。そういう意味において、とてもエポックメイキングな建物であり、さまざまな環境に対して追従できるインターナショナルスタイルを強化したものではないかと考えると、大きな魅力と価値のある作品です。

【大谷石の特性を知り尽くし、経年変化も見越す】
素材

寒色系の素材を暖色系に見せる
素材の持ち味を生かした空間デザイン

ライトは帝国ホテルで大谷石を使用しており、それに倣うかのように旧山邑邸でも用いています。文献によると、帝国ホテルの建設においては、建築材料はすべて国産品であること、と決められていたそうです。そこでライトは大蔵省臨時建築局にあった国内産石材標本室を訪ね、石川県産の菩提石を採用することにしたのですが、しかしながら菩提石は産出量が少なくて断念せざるを得ず、大谷石に切り替えたのだとか。菩提石は赤みを帯びた暖色系、大谷石とはまったく違う特質の石を選んでいますが、色味としての素材感は同様に考えたのではないかと思います。旧山邑邸をよく見ると、おそらくライトがこだわったのであろう、面白いポイントを発見することができます。

私も以前、関わった仕事において大谷石を採用したことがあるのですが、大谷石と言っても、その産出によるさまざまな種類に分けられます。たとえば産出する場所が深ければ深いほど目が詰まって、緑を凝縮したような色合いの石になりますが、圧力によって堅くなるということで値段は高くなります。切り出されてはじめは緑色ですが、空気に触れて経過すると徐々に酸化して茶色くなっていきます。でも、ライトは前述の通り、暖色系が好きだった。旧山邑邸の大谷石を見ると、ところどころに麩と呼ばれる茶色の部分は鉄分が多く含まれているので、風雨にさらされるうちにそこだけさらに茶色に変色し、穴が開いています。ライトは、この大谷石の経過の色合いの暖色系を理解していたのではないでしょうか。

【ディテールに捉われすぎず、全体のスケール感を愛でる】
見切り 環境

高窓から入り込む細かな光の動き
そこに佇む者を包み込む心地よいスケール感

玄関を抜けると、すぐに2階に上がる階段があります。天井高は1900mm。低いですね。でもこれは、外観フォルムからのつながりで出したスケールなのでしょう。しかしながら不思議と圧迫感は感じません。それは動線の中で圧迫感を感じさせないような視線の動きを計算しているから。高さや空間全体が気にならないように、視線を広がりがある部分に逃がしています。

そこから続く2階の応接室は、とても美しいですね。高低二重の天井が面白く、小さな開口をたくさん設けた高窓が印象的です。そこから入り込む光がチャカチャカと反射して、とても綺麗です。これだけひとつの部屋を装飾していながら、とても落ち着きが感じられます。ライトが考える装飾性とは華美と捉える人もいますが、光を拡散するためのデザインであり、さらに重要なのは、その先にあるスケール感のうまさが装飾性を昇華させています。

【光の反射の工夫、それによる空間の味わい】
見切り 環境

光を直接入れず、バウンドさせることで
やわらかく、やさしい雰囲気が演出される

応接室から水屋に入る手前にある扉や窓を見てみましょう。ガラス外側に見込み部分として、必ず大谷石の壁が突き出て奥行きをつくっています。こういったデザインの工夫によって、窓から直線的に光を採り入れるのではなく、外側にある大谷石の壁に一旦、光を当ててバウンドさせながら、光の陰影がすっと入ってくるようにしています。そうすることで光を取り込むことの意識を、このような装飾において感じることができ、その光はやわらかく、やさしい印象の空間になるのです。

【天井に設けられた1本のライン】
見切り 環境

見切りを美しく見せるためのアイデア
1本のラインにより、空間に緊張感が生まれる

3階の西側にある長い廊下ですが、天井に1本のラインを入れています。窓をこれだけ連装したとき、最終的にはカーテンも入りますから天井の左側の見切りがぼけてしまうのですね。だからここにラインを入れて、ぼけてしまう部分を補っているというわけです。これはなかなか思いつかないアイデアです。さらにそのラインの奥側は、手前に桟を入れています。あれで句読点がつけられているようで、ライトのデザインの楽しさです。

【和室の続き間、そして絵が施されていない無地の襖】
環境 素材

日本の伝統様式を採用した空間設計
西洋文化に置き換える中でのインスパイア

3階には、3つの続きの間の和室が設えられています。南から北に向かって8畳、6畳、10畳。本来、日本の家屋は続き間で構成されていますので、ライトが設計したこの和室空間は、正しいわけですね。ヨーロッパの城も次の間、次の間で構成されていますから、当然といえばそうなのですが、ただひとつ違うのは、襖で隔てると言う考えは西洋にはありませんね。西洋は壁で囲われた一つひとつの空間を連続して、そこ(扉)を開けてアプローチしますから。日本の場合は柱しかありませんから、襖をすべて開ければ屋根があるだけの内外一体の空間となり、庭の借景をそのまま絵と見立てて、襖を閉めれば襖に描かれる絵が、別の次元の借景をつくるように創作されました。旧山邑邸で襖絵がないということは、ライトにはやはりその認識がなかったのでしょう。

新堀 和巳

有限会社新堀和巳建築設計室 代表取締役。一級建築士。渡辺明設計事務所にて活躍後、独立。兵庫県安心住宅設計競技「システム提案部門特別優秀賞」受賞、あたたかな住空間デザインコンペ「LDKリフォーム賞」受賞など、数多くの受賞歴を持つ。住生活が第三の皮膚に相当するというバウビオロギー(建築生物学)をベースに、住まいづくりを進めている。