Review | 名建築を訪ねて 建築家・新堀和巳の考察
CASE.12 ヴォーリズ六甲山荘 設計:ウィリアム・メレル・ヴォーリズ

シンプルを追求する中で生まれる独自性
デザイン性と機能美がミックスした名建築

今回、ご紹介するのは「ヴォーリズ六甲山荘」です。1934年(昭和9年)に関西学院高等商業部(現 関西学院大学)の教授であった小寺敬一氏の夏別荘(旧小寺山荘)として建築されたものです。その後、甲南女子学園の所有となり、2008年にナショナル・トラスト方式でアメニティ2000協会が購入されています。傷みもなく、ほぼオリジナルの状態で存在しているヴォーリズ六甲山荘には、設計者であるウィリアム・メレル・ヴォーリズの美意識と機能性への追求がそこかしこに見て取ることができます。

【梁の装飾と、構造体の見せ方】
見切り 素材

アメリカ人の木造に対する美意識が
表現された軽やかなリビング空間

ヴォーリズ六甲山荘は、セメント成型板葺き平屋建て。約80年前に建てられた建物であるにもかかわらず、建具や調度品など、ほとんどが当時のオリジナルという、とても貴重な建物です。取っ手や蝶番などを見ると、その昔のデザインや技術などを知ることができ、建築を学ぶうえで素晴らしい教材となります。

この建物は、ヴォーリズ建築の中でも装飾性が少なく、とてもシンプルです。リビングはとても広く、柱と壁は檜、床はナラ材、天井の太い梁は松を使用しています。関西では一般的に構造材は杉か檜を選び、松は使わないので、ヴォーリズはアメリカ人好みの、こういう赤が好きだったのではないでしょうか。ここにちょっとした特徴が現れています。

この梁で面白いのは、アメリカの建築家兄弟にグリーン&グリーンという方がいるのですが、その人たちは日本のこの梁とかにすごく影響を受け、様式として日本風としています。全体をこのように丸くするカタチにおいては、よくハリウッド映画でも、日本家屋として丸っぽくセットとしてつくっていますよね。欧米人にとっては細かい部分ではなく、イメージとして捉えているのでしょう。しかし、日本人の木の美学というものは、もっと細分化されており、切断のきれいさや面の美しさをさまざまなカタチで表しています。ある意味、彼らがイメージするのは空間が牧歌的に見えますが、日本の木造美学にはない空間になります。

もうひとつ特徴として、この梁に対して受ける側の壁には梁で受けていません。日本の家屋では、梁で受けようとします。ここが日本にはないところですね。日本の場合、力が伝わるところを見せようとするデザインなのです。だから梁に力が加わったときに、あの端部でパッと消えてしまうのがどうにも不安です。このデザインは、構造体ではなく、意匠の一部として考えているのではないでしょうか。

【壁の表情と細部へのこだわり】
見切り 環境 素材

素材の大きさとコストのランダムさ
デザインと機能性を追求した空間設計

壁は檜ですが、あえて節のあるところを選んで山荘の雰囲気を出しています。ちなみにヴォーリズは結構、倹約家だったそう。こういった材の選び方にも、安いものや、高いものをバランスよく使ったようです。また、幅の厚いところ、狭いところとランダムに使い分けてあり、それが美しいデザインとなっています。これもデザイン性とコストの両方を考えているのでしょう。梁をなぐり仕上げにしたり、幅木に丸みを設けたりと、細かな部分まで丁寧につくられています。シンプルだけど上質さが感じられるのは、そういったこだわりによるものだと言えるでしょう。幅木の丸みはデザイン性だけではなく、掃除がしやすいようにと考えられた機能性の追求でもあります。また、窓も全部、桟が斜めになっており、雨水が全部外側に流れるように工夫されています。一種の湿気対策ですね。

【暖炉の前の造作家具やタイル、天井のデザイン】
環境 素材

家族の絆の深まりをも設計
暮らしにやさしい造作家具

リビングには暖炉が設えられています。これは暖房用というよりも、家族団欒のためにつくられたもののようです。暖炉を挟むように家族5人が腰かけられるかわいい椅子がつくりつけられています。暖炉の手前には泰山タイルが用いられています。これは昭和初期頃によく使われたタイルです。ヴォーリズは、このタイルを結構、愛用したそうです。椅子も背もたれが少し後ろに傾きがあって、角も取っています。すごくやさしい雰囲気に仕上げられていますね。この山荘は、基本的に洋風の家ですが、暖炉の上は船底天井のような、ちょっと和を感じさせるデザインとなっています。

【リビング・ダイニングの間仕切りと収納】
見切り 環境

プライベートとパブリックの
見事な融合と区分け

リビングもとても明るい、というまでの光量はありませんが、ダイニングはさらに暗さを感じます。夜ともなればほとんど照明がありませんから、私たちの普段の生活から考えると、とても暗いと言う印象を持ちます。でも、この暗さが豊かさをもたらすのです。これまで何度も光と影のお話をしましたが、このダイニングにおいても5分もすれば馴染んでしまう。この雰囲気が好きになります。

ダイニングとリビングは、間仕切りで仕切ることができる仕掛けとなっています。ちなみにダイニング側には取っ手がついていますが、リビング側にはついていません。また、間仕切りは吊ってあり、床にレールはありません。リビングにお客様を招き、くつろぐ際に、ここに部屋があるということを意識させない工夫です。

ダイニングの廊下側には食器棚がありますが、これもつくりつけの当時のままだそう。ヴォーリズは、デッドスペースをできる限りなくそうと考えていたようで、食器棚の下には引き出し式の収納があります。こういうアイデアは、現代の住まいづくりにも生かすことができますね。

【渡り廊下のトイレ、収納式アイロン台】
環境

限られたスペースを有効活用
コンパクトな使いやすさが秀逸

居室は、夫婦の寝室と子どもたちの寝室が2つあり、その反対側にお客様用の寝室が全部で4つあります。朝起きて窓を開けると森が見える。展望よりも、ここで静かに過ごすと言うような趣きでつくられたそうです。主寝室と子ども部屋の間には渡り廊下があり、そこにトイレを設けるという面白いつくりになっています。また厨房の向かいにある和室は、お手伝いさんが使用する部屋だったそうですが、そこには壁付けの収納式アイロン台が設けられています。スペースを有効活用し、かつ機能的であることを、ヴォーリズは常にこだわっていたのでしょう。

【繊維のうえから塗った漆喰】
見切り 素材

木の空間の中に見せるアクセント
シンプルな装飾で空間に対比をつける

扉の中央部など、壁の塗りに特徴が見られます。ヨーロッパではクロスの上に漆喰を塗るのですが、そういう方式を取っているようです。日本では、あまり見られないものですね。でも、こうして眺めてみると、とてもいい。空間に対比をつくるのが狙いだったのではないでしょうか。ヴォーリズは、この建物が建てられた時代の関係もあるのでしょうが、基本的に質素ですね。いろんなものを取り込もうと言う感じではありません。そういう意味では、フランク・ロイド・ライトとは対極の人のような気がします。もちろんヴォーリズも装飾は結構つくっているのですが、ある地点で装飾の能力の限界を感じたのかも知れません。私はそんな気がしています。

新堀 和巳

有限会社新堀和巳建築設計室 代表取締役。一級建築士。渡辺明設計事務所にて活躍後、独立。兵庫県安心住宅設計競技「システム提案部門特別優秀賞」受賞、あたたかな住空間デザインコンペ「LDKリフォーム賞」受賞など、数多くの受賞歴を持つ。住生活が第三の皮膚に相当するというバウビオロギー(建築生物学)をベースに、住まいづくりを進めている。