Review | 名建築を訪ねて 建築家・新堀 和巳の考察
CASE.02 軽井沢の山荘B(脇田山荘) 設計:吉村順三

軽井沢という地だからこそ生まれた
自然を見事に取り込む大胆かつ繊細な設計

建築家の吉村順三先生が設計をされた、西洋画家である脇田和画伯のアトリエ付き住居。1970年に竣工された建物です。豊かな自然の中に佇みながら、その緑や光、風といったものを、どのように捉えれば心地いい空間を生み出すことができるか。そのプランニングが実に秀逸な作品であり、吉村先生の合理的な構築の上につくられたこの建物の美意識も含めて見ていきたいと思います。

【敷地中央の大胆な配置/湿気対策のピロティ】

南からのまばゆい光も、北からのしっとりとした影も
日本人が大切にしてきた美意識を大切にした
配置計画

現在、脇田山荘がある敷地の北東側には脇田美術館が建っていますが、当時は無く、脇田山荘がつくられたときは敷地のほぼ中央に配置されています。庭にコブシの木を植え、それを囲むようにくの字型の配置のプランニングは、とても自由な捉え方だと思います。大きさを持つ敷地の中で、建物を中央に配置するというのは興味のあるところです。一般的に南面を庭として広く取ることが常設ですが、庭が最も美しく見えるのは北面です。暗いと思われがちな北側は光と影の陰影がとても美しく、そんな本来日本人が大切にしてきた美意識を吉村先生は重視したのではないかと思います。脇田山荘はピロティとなっていますが、これは軽井沢がとても湿気が多いことに由来すると考えます。湿度対策のために床を上げ、居住部分を2階にして木造、基礎部分はコンクリートで設え、対候性(耐久性)を持たせています。また、これだけの環境・地面の中で、1階部分を木でつくるととても頼りない印象の建物になってしまいます。コンクリートという素材を用いて、荒々しさを表したかったのではないでしょうか。さらに配置に捉われない建物としてピロティは最適だったと考えます。

【プロダクト的レイアウト/ソファベンチを用いた室内】

コンパクトな空間を便利に、そして優雅に
ソファベンチを採用したプロダクト的レイアウト

南東側が寝室で中央がLDK、そして西側にアトリエを配置しています。いわば平屋のようなつくりになっていますが、吉村先生は合理的(コンパクト)につくることを設計のベースに置いていますから、脇田山荘も部屋の奥行きが広くないのですね。玄関を入るとコブシの木がある庭が見えるわけですが、右手の収納を隔てた向こう側にはすぐにキッチンがあります。そこを回り込むようにしてリビングルームへとつながります。この住まいの面白いところは、北側の壁にソファベンチを設けている点です。空間をコンパクトにつくっていますから、ある意味、そうせざるを得なかったのかも知れませんが、斬新な発想ですね。北側に、つまり南に向いてソファベンチを設えているのが、いかにも日本的です。日本人は借景を取りますからね。欧米人は逆です。欧米人にはあまり借景という概念がなく、部屋が暗いですから本を読むときに光が射し込む方向を背にします。1階はコンクリートという人工的で、強さを感じる素材を用いていますが、居住スペースは木の空間です。天井は杉を用い、壁や柱、幅木はカラマツを採用しています。ソファベンチに座って外を眺めたとき、身を置いている室内空間が外部空間に溶け込むような工夫を施していると言えます。

【外環境の空を取り込むデザイン/陰影を持つ六角形の支柱】

ディテールへのこだわりが、
建物をより美しく引き立てる

1階の建物の中心部が外に向かってコンクリートのスラブが細くなっています。建築の合理性がよく表れている部分です。ここがキャンティレバーですから、根元が太くて向こう側が薄くなっています。力学的に端部に厚みがいらないので、このようなデザインにしているのだと思います。こうすることでピロティ下から外環境への空を広く視線を取り込むことが出来るのです。また小口の部分が薄くなることで見た目にも美しくなります。見切りとデザインの美しさ、そして視界の広がり。こういった細部へのこだわりが、住まいや暮らしを美しく、豊かにするのです。またピロティの支柱ですが、六角形になっています。これはおそらく脇田山荘のプランがランダムですから、方向性がない方がいい。そして六角柱であることにより、陰影がピシッと見えてくる。こういうところが吉村先生の美意識なのではないでしょうか。これが円柱だと影がグラデーションになってしまいます。また円より面のほうが施工性はいいので、コスト的にも合理的なほうを選んでいます。

【合理性の美意識を追求した母屋/見切りを一体化させない屋根】

合理性を追求したその先にある
究極の簡素形という美しさ

脇田山荘の屋根部分を見ると、母屋を出しています。我々は建築デザインのひとつとして隠そうとする傾向がありますが、吉村先生は素直に出してつくり込んでいます。しかしながら、そのまま素直に出して綺麗につくってしまっているのですね。これは合理性の美意識を突き詰めた形で生まれてくるもので、なかなか綺麗に収まらないもの。合理性を重視し、合理的を貫く先に、こういった美しい簡素形が誕生するのです。建物の裏側、つまり北側から見たプロポーションは、3つの屋根が重なっている難しい部分の見切りを一体化しないで、面と立体的に重ねあわせて収めているのが見事です。おそらくリビングスペースからアトリエにつながる廊下部分をあえて細くしたのは、一体化すると立体的に陰影が単純になりすぎるので、ランダムな形で収めるという方法を用いたのでしょう。この部分が建築家の技量でもあるのです。

【外と中を一体化させる窓/借景から割り出されたプロポーション】

その空間で一番心地いいと思える景色から
建物のプロポーションの詳細を決めていく

庭に向いた2階の窓は、建具がすべて壁に引き込まれるようになっています。吉村先生の設計の特徴のひとつです。そうすることによって「02-B」でも申し上げましたが、空間が外になるのですね。外空間と居住空間が一体となる仕掛けです。また建物全体のプロポーションですが、天井高は決して高くはないですよね。これも「02-B」でお伝えした通り、北側の壁のソファベンチに座ったときに、一番庇が邪魔にならないギリギリのところまで計算されているわけです。そこから天井高が割り出されているのではないかと思います。2階にいるときは空を見ようとはしていません。2階はコブシがある庭を見下ろす。空が見たければ1階に。そういった空間設計のコンセプトといいますか、思い切りが、とても興味深い造形や居住環境を生み出しているのだと思います。

新堀 和巳

有限会社新堀和巳建築設計室 代表取締役。一級建築士。渡辺明設計事務所にて活躍後、独立。兵庫県安心住宅設計競技「システム提案部門特別優秀賞」受賞、あたたかな住空間デザインコンペ「LDKリフォーム賞」受賞など、数多くの受賞歴を持つ。住生活が第三の皮膚に相当するというバウビオロギー(建築生物学)をベースに、住まいづくりを進めている。