Review | 名建築を訪ねて 建築家・新堀和巳の考察
CASE.01 二期倶楽部 設計:渡辺明設計事務所

地産地消の概念を設計に生かすことで、
自然の中に溶け込む心地よいホテルが誕生した

私がまだ独立する前、渡辺明設計事務所で修業を積んでいた頃に、二期倶楽部(Part.2工事)の設計に携わりました。この二期倶楽部を設計するにあたって、私の恩師である渡辺明先生が大切にされたことは、“環境建築”という概念での全体構想づくりでした。建物は経年による変化が避けられません。その変化そのものが建物に一番しっくりと馴染む素材を選ぶことを重要視されたのです。ちなみに二期倶楽部では、地元で採れる大谷石をふんだんに用いています。そのことによって二期倶楽部は周囲の自然と調和することができ、心が落ち着く居心地のよいホテルとして、多くの人に愛されるようになったのだと感じています。

【大谷石の表面加工・積み方】

その土地に一番馴染む素材を選び、
さらに加工を施して光をやさしく拡散させる

二期倶楽部では、地元で採れる大谷石をふんだんに用いていますが、大谷石をそのまま貼るのではなく、びしゃん(石材の表面を加工するときに使用する鉄槌)で表面をすべて45度の角度で削っています。このことにより光がやさしく反射するのです。また素材選びにおいては、質感・質量も重要になります。二期倶楽部では厚み9㎝×30㎝×90㎝の大谷石を積み上げ、漆喰によるなまこ壁(栃木県で多くの有名な蔵に用いられている様式)に仕上げています。これが表面だけの薄い石だと質感は感じられないもの。人間は、そういった部分を直感的に判断します。床にしても柱にしても、表面だけ無垢に見せかけている素材は瞬間的にチープさを感じますね。本物の素材を用いることは、あたり前のことですが上質な建築物をつくるにおいてとても重要なのです。また大谷石という素材に対して、そこに合わせるものが工業製品だと大谷石もチープに見えてきます。組み合わせによって素材に“勝ち負け”が出てくることをしっかりと考慮しながら調和させていくことが求められます。

【路地の大谷石】

建物が誰に、どのように使われるのか
その目的を考え、素材を選び、設計する

素材の構成ひとつで、その空間は見え方が大きく変わってきます。二期倶楽部では、路地の通路部分を大谷石にしましたが、当初、経年変化に強いという観点から白河石を用いていましたが、白河石の表情がコンクリートのような無機質なものとなってしまったので、素材の有機的な表情を外床にもつくり込むために、表面に「ふ」が出る大谷石を採用したわけです。建物の目的を考え、素材を選ぶことはとても重要なことです。野趣あふれる野面積みの壁と白く輝く大谷石の通路の対比が、上質さを醸し出しています。

【建物の配置】

建物が建つ環境が、一日に、季節ごとに、
どのように変化するのかを十分に見極める

二期倶楽部Part.2では、平屋の離れのような客室をつくりましたが、借景を考えて川辺に近づけたため、どのように湿度を抑えるかがポイントとなりました。湿度を抑えるためには点在する離れの間に効果的に風を通さなければなりません。そのために朝、昼、夜、そして季節ごとの風の流れを現場で体感し、建物の配置、路地の設計を行っていきました。もちろん太陽の動きも重要です。このように建物が建つ環境をしっかりと見極めて設計しなければ、快適さを得ることはできないのです。

【那須岳の花崗岩】

周囲の自然と馴染む素材を用いることで
建物に物語性が宿り、より価値が高まる

建築物としての存在感をあらわにするのではなく、そこが自然の一部であるように感じさせるため、屋根には栃木県で採れた川の石を敷き詰めています。使用した石は、その昔、那須岳が噴火してこの地に堆積した花崗岩が歳月をかけて摩耗され、丸くなった大きめのものです。各部屋からの借景が美しく見えるように客室は段差を設けて配置していますが、客室群を上から望むと屋根に敷き詰められた石が、河原のように見えるのですね。またゲストに、その先に川があることを想像させる効果もあります。用いる素材の歴史や背景を考えることも、建物により価値を与えると思います。

【屋根のツバ】

切り取った場所、時間を美しく見せること
それが建物の深みとなり、個性となる

見切りは空間や建物を美しく見せるために不可欠な要素です。二期倶楽部でわかりやすい例をあげると、“屋根と空の見切り”があります。平屋の客室の天井部分に、7㎝のツバを出しています。このツバと空との見切りが美しいから、建物全体に上質さが感じられるようになるわけです。こういった考察を“開口部”“地面と壁”“屋根と空”でとことん行っていくのです。私は、この見切りを考えることが建築家にとって一番の楽しみであり、個性を表現する部分だと考えています。

新堀 和巳

有限会社新堀和巳建築設計室 代表取締役。一級建築士。渡辺明設計事務所にて活躍後、独立。兵庫県安心住宅設計競技「システム提案部門特別優秀賞」受賞、あたたかな住空間デザインコンペ「LDKリフォーム賞」受賞など、数多くの受賞歴を持つ。住生活が第三の皮膚に相当するというバウビオロギー(建築生物学)をベースに、住まいづくりを進めている。