Interview | ディテールを語る

作品 「自然と寄り添う住まい」

目線のコントロールにより生まれた
自然と豊かな暮らしが寄り添う住まい

kobori 研築工房 山本直樹

傾斜地を巧みに活用した6層のスキップフロアが、
眺望を美しく切り取る

六甲山の麓に造成された桜並木が美しい住宅地。その地の最上段からは阪神間の街並み、そしてその先には大阪湾を見渡すことができる絶好の眺望が広がっている。オーナーの希望は、自宅ではあるものの多忙な日々を送る中で、ほっとするやすらぎが欲しいというもの。非日常的な時間の流れが感じられる住まいにしたいというものであった。
「要望はそれだけで、後はすべてお任せ。実は、宅地の区画選びも任されたのです」と山本氏は述懐する。現地調査を繰り返し、選択した区画は、眺望を一番ストレートに見ることができる場所。眺めだけではなく、空や桜並木といった自然を最大限に享受できるロケーションをベースに、空間設計を起草させていくこととなった。

山本氏が、思考を重ねたのが斜面の活用。敷地自体は90坪と決して狭くはないが、建坪は26坪ほど。その中にゆとりある生活空間を確保し、さらに眺望を生かしていくとなれば、地下1階、地上2階、6層のスキップフロアに仕立てるプランが最適ではないかとひらめいた。
「単に眺望を生かすだけなら、広々としたリビングに全面ガラス張りのサッシを用いればいいのでしょうけれど、それだとインパクトはあるものの、暮らしそのものが単調になってしまう。リビング、ダイニング、寝室など、生活シーンごとに見え方、感じ方が変わる豊かさを空間に与えるためには、スキップフロアにし、動線や居室ごとに視線をずらすことで景色が変化する工夫を施すことが大切だと考えました」。

玄関の扉を開けると、そこに見えるものは眺望ではなく、地下1階から地上2階まで貫く坪庭空間。ほんのりとした明るさに包まれながら玄関ホールをクランク状に進むと、階段越しに一段下がったリビングが現れ、美しい眺望が顔を覗かせる。しかし、ここに山本流のこだわりが。
「景色を一気に見せることはせず、スケルトン階段によって、“見える量”を抑えています。本当のお楽しみはリビングに下りてから。そこで初めて眺望が開けるという仕掛けになっています」。

非日常のデザインの中に宿る、
日常の暮らしに必要なやさしさ

山本氏は設計するにあたって常々、心がけていることがある。それは“目線のコントロール”というものだ。生活には、どうしても“見たいもの”と“見たくないもの”が存在する。たとえば窓は本来、心地よさを運んでくれるものではあるが、そこから見えるものが隣家の壁だとしたら、暮らしの豊かさは失ってしまう。
「この住まいでは、いずれ両隣に建物が建つことを前提に、サイドは基本的に壁にしています。和室や2階の洋室には地窓や高窓を用いて採光には考慮しつつも、“見たくないもの”が見えない設計に仕上げました」と山本氏。

「スケルトン階段による見え方の量もそうですが、開口部にはバーチカルブラインドを用い、見たい量の調節ができるようにしてあります。また、スキップフロアの高さを約1mに抑えることでリビングとダイニングを一体化させたり、吹き抜けやガラスの間仕切りを採用することで、ご夫婦がどこにいても程よい距離感と気配が感じられる空間を生み出しています」。

非日常的な時間が流れる住まいに、というオーナーの希望ではあったが、一方で忘れてはならないことがある。それはこの住まいがあくまでも自宅であり、別荘とは違って普段使いの場であるということだ。その点について山本氏は、オーナーの将来や、日々の暮らしの中で感じるであろう感覚も考慮したアイデアを組み込んでいる。
「暮らしに豊かさを与える一方、どこに行くにもステップがある。年齢を重ねると、それがバリアになりかねません。そこで坪庭空間を活用し、将来、ホームエレベーターが設置できるように設計しました。全フロアに開口(扉)が取れるように配慮し、床下に電源を設けたり、建ぺい率もクリアしています」。

また、和室は心が落ち着く“籠り感”が味わえるよう、眺望から外れた場所に。寝室の天井はあえてコンクリートの打ち放しを見せて、“守られている感”が得られるように仕上げた。
「眺望を生かし、空や樹木などの自然が身近に感じられることで、住まいに浮遊感が生まれます。それは心地よさでもあり、シーンによっては心細さにもつながる。寝室に用いたコンクリートのように、素材によって住まう人の心は安定したり、やすらいだりすると、私は考えています。これからもデザインだけでなく、そういった素材の仕掛けもどんどん提案していきたいですね」。

kobori 研築工房 山本直樹

kobori 研築工房 山本直樹

大学を卒業後、新卒で同社に入社。阪神間で多くの住宅設計を手掛ける。設計信条は、「目線のコントロール」。見たいもの、見たくないもの、感じたいもの、感じたくないものを空間の中で切り分け、心地よさを演出する。
ディテールにはとことんこだわり、シャープではあるが、どこかやさしさを感じる温かみのあるデザインを追求。木、土、石など、素材が持つ風合いや質感が、人に与える影響に大きな可能性を感じ、住まいづくりへどのように生かしていくかをテーマに、日々、新たなアイデアを模索・挑戦する日々を送る。

  • 自然と寄り添う住まい