Interview | ディテールを語る

自身の設計手法を語る

生活空間にある、わずかな余白
そこから家族の、将来の楽しさが生まれる

kobori 研築工房 佐藤荘一

オーナー自らが“面白い、楽しい”と感じられ、創造できる空間を提案

1階をパブリック、2階をプライベートスペースに切り分け、いつでも気軽にゲストを招くことができる配慮を施した空間設計。LDKにつながる大階段が特徴的な市原展示場は、その名の通り“集い”をテーマにした開放的で、いつも誰かと触れ合える仕掛けが施されている。また幕張展示場においても、縁側を通常よりも広く12帖も取り、空間に伸びやかさと奥行きを与えることに成功。ダイニングキッチンやリビング、そして中庭まで視界が抜ける、ダイナミックな演出となっている。この2つの展示場を設計したのが佐藤氏。今年入社10年目を迎える、気鋭の企業建築家である。

そんな2つの展示場を見て、自らの感性が揺さぶられたと訪ねてきたオーナーは、「大階段を生活空間のひとつとして考えるプランニング提案に驚いた」と語ったそうだ。佐藤氏に住まいづくりを託すうえでの要望は、2つの展示場に込められた“暮らしていて面白い、遊び心のある家”にして欲しいというものだった。

「住まいづくりの第一歩として、当然のことではありますが、ヒアリングを行います。この時も3時間くらいお話ししましたが、ご要望の一つひとつが“楽しいもの”というキーワードに色塗られた漠然としたものだったのですね。このままプランニングをお引き受けすると、おそらくオーナー様にとって消化不良を感じさせてしまうと考え、再度、ヒアリングの場を設けました」と佐藤氏。そして2回目のヒアリングでは、趣味やライフスタイルはもちろん、好きなマンガのキャラクターまで、ありとあらゆる情報を吐き出してもらうことにした。その中でオーナーの生活スタイルやこだわり、人間性というものを感じ取り、そしてひとつの答えに行き着いた。

「オーナー様が、ものすごく好奇心が旺盛で、感性も豊かでいらっしゃること。これは裏を返せば、興味の対象、面白いと感じることが、時間の経過とともに変化するということです。趣味・志向やライフスタイルが変化するのは誰でも当たり前のことですが、この住まいの場合、“自らの発想で面白いと感じる空間に変化させられる”プランニングが重要だと気づいたのです。

時には景色を愉しみ、時には子どもたちの遊び場に。豊かな毎日が生まれる

そこで佐藤氏は、LDKをクランク状に設計し、ダイニングとリビングの中間に、わずか3帖ほどの余白となるファジーな空間を設けることにしたのだ。そこはダイニングスペースと言えばそうなるし、リビングスペースだと考えれば、そのように使える場所。

「つまり、住まう人の考え方次第で、いくらでも空間アレンジができるということです。空間の先には中庭をあしらうことで、陽当たりも景観もすごくいい。気持ちいい場所なのですね。ダイニングテーブルを庭に寄せて食事を楽しむのもいいですし、大きなモニターをつけてシアタールームとして活用することもできる。あるいはソファを持って来ればリビングスペースが空くので、そこをまた違った使い方をすることもできます。この小さな余白が、オーナー様の好奇心を吸収したり、生活の多様性を満足させると考えたのです」。

この提案はオーナーの心を打ち、見事に採用された。先日、佐藤氏はオーナー宅を訪ねたそうだが、その余白には、子どもたちのための小さなダイニングテーブルとチェアが置かれていたそうだ。

「大学時代、著名な建築家の研究室に通っていた頃、教えられたことがあります。それは図面を、用途が固まっている部分を黒、固まっていないところを白に塗り分けるというもの。白い部分が多いほど、住まいは面白くなるという教えでした。日々、プランニングする上で、この教えが私の原点。悩んだらここに立ち戻って頭を整理すると、いいアイデアが浮かぶのです」。

今回はヒアリングに時間をかけた佐藤氏だが、あまり時間をかけ過ぎるのはよくないとも考えているという。満足度の高い住まいをつくりあげるためには、オーナーとそこでの生活イメージを共有し、土地の性質も理解していないといけないが、オーナーの思いを聞き過ぎると、「将来が見えなくなってしまう」とブレーキをかける。

「オーナー様のほとんどは、今、もしくは近い将来を考えてお話しされます。10年、20年、30年も先のことまで想像して打ち合わせされる方は皆無と言っていいのですね。私たち企業建築家は、そんな将来の快適さもプランニングしなければなりません。だから、オーナー様からいただく情報にも“余白”をつけることが重要なのです」。

10年後、さらにその先の心地よさの創造。これが住まいづくりに携わる者にとって永遠のテーマではないかと語る佐藤氏。わずか“3帖の余白”を鍵に、そのテーマに一石を投じていきたいと語ってくれた。

kobori 研築工房 佐藤荘一

kobori 研築工房 佐藤荘一

大学卒業後、同社に入社。千葉支店に配属され、8年間で約150棟の注文住宅の設計を行う。その後、Kobori研築工房に異動。現在に至る。影響を受けた建築家はいるものの、日々の発想の原点となるのは、「ふらっと歩いているときに、たまたま目にする公共建築」だと語る。公園やショッピングモールのベンチに座る人々を眺める中で、人が心地よく、楽しく集うためのレイアウトや動線が浮かんでくるそうだ。ちなみに市原展示場の大階段は、京都駅にある大階段に座っていた老夫婦の姿から着想したのだとか。「意図してつくられた機能性よりも、人が偶然的に発見した心地よさ、使い方を見つけた時がうれしいし、楽しい」と語る。

  • 市原展示場
  • 幕張展示場