Interview

設計思想を語る

空間にちょっとした工夫や遊び心を
加えることで、暮らしがより豊かに

建築デザイン室 マスターデザイナー 櫻井恵三

卓越した知識、デザイン力の融合により、住まいが洗練されていく

モダンなデザインの中にも、和の心が宿る住まい。そんな和と洋の巧みなバランスを得意とし、これまで数多くの作品を生み出してきた櫻井氏の設計思想を支えているのは、少年の頃に出会った一冊の写真集と、建築士として活躍し始めてから研究を重ねた日本の文化だ。
「私が建築の世界に入る最初のきっかけは、中学一年生の頃に受けた技術家庭科の授業。もともと絵を描くのが好きだったこともあり、“椅子の製図”という課題に、どっぷりとはまったのですね。その後、高校生の時に、人生を決定づける書籍と出会います。それは、1940年代末から1970年頃までにアメリカで建てられたミッドセンチュリーデザインの平屋の住まい『アイクラーホームズ』の写真集。水平ラインが強調された佇まいや、プライバシーを守りながらのオープンエアな空間、そして今では常識となったアトリウムの採用など、その美しさ、開放的で心地よさを生み出すコンセプトに、すっかり魅了されたのです」と櫻井氏。そんな出会いから、大学は迷わず建築学科を選択。建築を本格的に学び、経験を積む中で、今度は数寄屋造りにも興味を持ち、襖や障子、畳の歴史などの日本文化を徹底的に研究したそうだ。「その結果として和と洋を結び付けられる力が付いたのは、建築士として大きな財産」と語ってくれた。
「プランニングをする際、私なりに一つのルールを決めて取り組んでいます。それは曖昧なゾーニングはせず、最初からライン(直線)をきちんと決めて配置していくこと。もちろん壁の通りは意識しますが、そこを意識し過ぎると、空間にがたつきが出てしまうのですね。そうなると空間としての美しさが担保出来ないのです。ですから私が描くプランは、一見、シンプル過ぎるくらいシンプル(笑)。でも、そういったきれいな空間のほうが、絶対に居心地がいいと考えています」。
さらに、もう一つ大切にしていることがあるという。それは、“ゆらぎ”だ。整然としたデザインは美しいが、そこに長く居続けると疲れを感じてしまう。美術館の中でずっと暮らしていけるかと言えば、どこか気持ちが落ち着かなくなるものだ。住空間の中にちょっとした隙を与えてあげることで、やすらぎが生まれるのだと櫻井氏はいう。
「たとえば窓の位置を少しずらしたり、壁の一部や天井の色を変えてみたり。照明計画によって陰影を生み出すこともやります。そういったゆらぎ、あえてバランスを崩した気持ちを逃がす部分をつくることで、心がやすらぐ住まいが誕生するのです」。

自然の恵み、やさしさも感じられる空間設計を追求し、形にしていきたい

大人の隠れ家をコンセプトにした住まいでは、隣家からの視線を遮りながら、内部に伸びやかな空間を生み出した。回廊のような長い廊下も設えることで、住まう人はもちろん、訪れるゲストも心躍る、「その先には何があるのだろうか」と思わせる仕掛けが施されている。
「この住まいでは、廊下の壁を片側だけ墨色にしています。墨色の壁に自然光が当たれば吸い込まれていきますが、もう片方の壁には反射し、絶妙な美しい陰影を生み出すのです。また、廊下から覗く入口の壁も墨色にしていますが、こうすることでスッと体が吸い込まれるような導きが演出される。その他の部屋では、モノトーンの抑えた色味を基調としながらも、アクセントとなる赤やモザイクタイルなどをあしらうことで、華やかさをプラスしています」。
また、神奈川県に建つ邸宅では、家づくりを奥様にも楽しんでもらおうとヒアリングを重ね、シャネルの赤色が大好きだという言葉を引き出した櫻井氏。メーカーに特色をいくつか作ってもらい、銀座のシャネルの店舗に出かけては、カラーチャートで色合わせをしたそうだ。そこから完成したのが、鮮やかな赤色が輝きを見せるオリジナルのキッチン。奥様も大喜びだったそう。
「門扉のアイアンのデザインや扉の取っ手などを、オリジナルデザインで仕上げることもしばしばです。たとえばオーナー様のイニシャルをデザイン化するなど、遊び心のある、記念にも残る提案をよくします。隠れた美といいますか、よく見ると『なるほど』と(笑)。こういう仕掛けは、私自身も楽しいですし、オーナー様にも喜んでもらえるので好きですね」と笑う。
高気密・高断熱性能や最新の空調設備などによって住まいの快適さは生まれるが、設計するにあたっては、住まう人の感性に働きかける工夫も心がけていると櫻井氏。一定に保たれた室温は確かに心地いいが、「少し暑いのだけれども、流れてくる風が気持ちいい」という体験のほうが、心が豊かになるのではないかと指摘してくれた。
「24時間換気システムでは、2時間に一度の間隔で室内の空気の入れ替えが行われます。窓を開けるよりも空気は入れ替わりますが、でも、特に朝などは窓を開けたほうが気持ちいい。爽やかな風やぽかぽかした陽だまり、四季などが感じられる空間設計は、心地よく暮らすための重要な要素だと思います。これからもそれらを大切にし、追求し続けたいと考えています」。

建築デザイン室 マスターデザイナー 櫻井恵三

建築デザイン室 マスターデザイナー 櫻井恵三

大学で建築を学び、設計事務所に入所。数多くの建築を手掛ける中で数寄屋造りに興味を持ち、研究を重ねる。その過程で町屋や畳、襖に障子など、日本建築を構成するさまざまな要素にも造詣を深め、それらを現代建築の中に採り入れる手法を模索・構築していった。その後、住友林業に入社。和に対する見識と、建築の世界に誘ったアイクラーホームズをベースとする西欧デザインを巧みに融合させ、モダンデザインの中にも、日本人が心やすらぐ設えを兼ね備えた住まいづくりを得意としている。

  • 端正で美しい邸宅
  • 集いを楽しむ家