Interview | ディテールを語る

作品「森住みの家」

窓の外へも、ずっとリビングが
続いていく。
木々、山並み、空のすべてが
我が家のような家。

シニアデザイナー 菊池芳郎

その土地の声を聞く。すると新しい息吹が、プランの中に描かれていく

10年ほど前から別荘の設計を中心に手がけてきた菊池氏。フランク・ロイド・ライトが手掛けた自然の中に溶け込む素材やフォルム、ミース・ファン・デル・ローエのナチュラルなシンプルさの追求などに自らの設計思想を重ね合わせ、周辺環境に溶け込む美しい佇まい、オーナーが心やすらぐ住空間を、これまで数多く生み出してきた。今回、ご紹介する『森住みの家』も、菊池氏が手掛けた作品を見たオーナーが、ぜひにと依頼した別荘である。

「浅間山が望める小高い傾斜地に建っていた別荘を、新しく建て直したいというオーダーでした。現地に行くとそれは平屋でしたが、一部が屋根裏部屋になっていて、そこから見る浅間山がとてもきれいで。その景色もしっかりと採り入れようと、ゲストルームを兼ねた2階もプランニングすることにしたのです」。

前出の著名建築家からヒントを得ることもあるが、何よりも大切にしているのは、その場所でオーナーが、どんな気持ちやスタイルで過ごすのかということを想像し、創造すること。それが彼のスタイルである。その土地の気候風土はもちろん、生えている樹木や草花、景色、既存の建物があれば、そこで表現されている住環境や工夫などを自分の目で見て感じ、それら要素を足しては引き、ときには掛け算をして新たな発想をふくらませていく。そうすることで朝、昼、夜、春夏秋冬それぞれに、心地いい時間が流れる住まいが完成するのだと語る。

「森住みの家では、傾斜地の高台部分に建てることで三方向に視線が開ける設計を施しました。1階の寝室や2階のゲストルームからは浅間山が望め、リビング・ダイニング、そしてそこからつながるデッキからは、その地に力強く育った樹木が愉しめる仕掛けです。フォルムも、まるで空に浮いているかのような、非日常感のあるデザインに仕上げました」。エントランスからホールへ、そしてリビングに進むと、目の中に自然豊かな景色が飛び込んでくる。リビングの左手には、ダイニング・キッチンが。リビングとDKとの間には30センチの段差を設け、土地の傾斜と合わせるように、緩やかにくだる空間デザインを施している。「そのことでリビングのソファでくつろぐ人と、DKにいる人との目線が合いやすくなる。目が合うと自然と会話が生まれ、楽しさも増していきます。このスキップフロアは、そんなやすらぎ効果も狙って設計しました」。

自然の力に負けない素材を選ぶことで、暮らしが豊かに彩られる

ダイニングの前には3m強ほど張り出したデッキスペースが広がっている(リビング前は約1m)。リビングを含め、大開口のサッシが採用されているので十分に開放的ではあるが、さらに心地よさを増幅させる工夫が組み込まれているそうだ。

「デッキの上には軒をかけていますが、その天井材がリビングやダイニングの天井と同じアメリカンレッドシダー。貼り方向をすべて統一しているので、内と外で目線が途切れることがないのですね。だから室内にいてもずっと床も天井も続いているように見え、実際の広さ以上の開放感を味わうことができるのです」。

また、リビングの床には濃淡が強いサペリ材を用い、壁には白、ベージュ、茶色、緑色などが混在した自然石を、そしてダイニングの床には色むらのあるタイルを採用している。その理由を菊池氏は、

「周囲の自然に調和するもの、そして負けないものとして素材選びをしました。初夏には新緑、秋には紅葉、冬には雪景色と、色が季節ごとに変化する中で、素材に力がないと住空間に豊かさが生まれない。そんな素材選びは、特に別荘をプランニングする上で、とても重要な要素のひとつだと考えています」と明かしてくれた。

2階は、雄大な浅間山を存分に楽しめるゲストルームに、京都「俵屋旅館」の一室から着想したカウンターテーブル付きの和室や、こもり感のある書斎も設えた。

「せっかく非日常を楽しむ別荘なのですから、遊び心も加えようと。1階にあるカウンターテーブルも、読書やちょっとした食事をするのに使えるようにと思ってつくったものです。読書なんてリビングのソファですればいいし、食事もダイニングですればいい。でも、せっかくやすらぎを求めて来る場所なのですから、家具で過ごし方を縛ることはしたくない。ここに暮らす人が自由に、自分で気持ちのいい場所を探して利用できるようなユーティリティさを、森住みの家にはプラスしたかったのです」。

欲しい景色を切り取るための窓の位置。メンテナンスを考え、デッキの外に雨が落ちるように配慮された大きな軒。自然の中に溶け込む外壁の素材・色合い…。菊池氏による森住みの家を彩るアイデア・工夫は、枚挙にいとまがない。その一つひとつの積み重ねが、本物を知るオーナーたちの心を捉えて離さない理由なのであろう。

シニアデザイナー 菊池芳郎

シニアデザイナー 菊池芳郎

平成7年、ミサワホーム株式会社入社。2年間、営業所にて一般住宅の設計に従事。その後、デザイン性の高いハイエンド住宅を手掛ける、アーバンデザイン設計室に異動する。そこで10年間の経験を積み上げた後、遠隔地建築をサポートするリゾートリビング室(現 Nextリビング課)にて、セカンドハウスの設計を始める。そのデザイン力・提案力が認められ別荘設計の専任に。単に住まいをつくりあげるだけでなく、別荘の使い方も含めたウィークエンド&リゾートライフにおける総合的な提案ができることを強みとしている。

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  • 三景を愉しむ家