Interview | ディテールを語る

静寂の中に佇む家

人と建築、自然と素材との最適解
贅沢な心の在処、静寂の中に佇む家

チーフデザイナー 加藤公太

曖昧な部分をデザインする。五感に訴えるデザインが、デザイナーとしての矜持

明るく心地よい自然光が降り注ぐ東側には、遊歩道を挟んで小川が流れ、その先には緑豊かな公園が広がっている。北側にもポケットパークがあり、樹木が伸び伸びと葉を繁らせている。ロケーションに恵まれたこの場所は、とはいっても都心へのアクセスにも便利な住環境である。周囲の自然を暮らしに取り込みながらも、プライバシーやセキュリティにもしっかりとした配慮が求められるのは当然のことだ。もちろんフォルムや空間構成のすべてに、気品が醸し出されていなければならない。

加藤氏は言う。「心地いい空間や上質な空間というものは言葉にするのは簡単ですが、それを建築として表現するのはとても難しい。人と建築、光や風、緑、素材の関係性をニュートラルに見つめ、そのうえで緻密に計算することで、住まう人や訪れるゲストが心穏やかに過ごせる空間が生まれるのだと考えています」。

オーナー様は多くを語らない方だったそうだ。要望と言えば「木々や花を眺めながら、お茶を楽しむ」、そんな気持ちのいい空間が欲しいというくらい。しかし加藤は、具体的な要望よりも、雑談の中で感じ取るライフスタイルや人柄、価値観というものを大事にする。なぜならこのような“曖昧な”部分をデザインすることこそが、五感に訴えることにつながるからだ。それがデザイナーとしての使命だと考えているのだ。
「お話をして強く感じたのは、オーナー様にとっては、気品ある上質な環境がスタンダードであるということです。これまで住まわれていた家のインテリアはもちろん、旅行や旅先でのホテル、レストランなどの思い出をお伺いする中で、ベストな組み合わせが徐々に形になっていきました」と加藤氏。
そこから導き出された答えは、家のどこにいても庭や自然を感じることができ、まるで別荘に来たかのような心やすらげるコートハウス。余分なものはそぎ落とし、重心を低く取ることで落ち着きと包容力のある、気品高い住まいに仕上げられた邸宅だ。西側の通りに面した外観は、シャープな縦横の線で構成された美しいファサードが印象的。2階部分には表情が微妙に異なる大判のタイルを、外構のRC壁は杉板型枠で設え、構造物ではあるものの周囲の自然と溶け合う工夫を凝らしている。

関わるすべての人々の情熱が生み出した、“無になれる”やすらぎの住まい

外から眺めれば窓が少ないが、水平ルーバーと半透明のフロストガラスの帳壁により、外部と内部との境に中間領域が生まれ、プライバシーを守りつつ外の自然も感じながら暮らすことができる仕掛けとなっている。内部は縦の空間、横の空間の連続性を大切にしたダイナミックな提案だ。中庭を挟んでコの字型に設計されたそれは、リビング、ダイニング、パウダールームなど、どの空間にいても自然光と風、緑を感じることができるだけでなく、カーテンさえも必要がない、非日常的な時間を日常として楽しめる住まいとして成立しているのである。

「空間づくりにおいては、海外のリゾートホテルを思い描きました。リビングやゲスト用のダイニングの床材は600㎜角の大判タイルを、天井にはウォルナットを貼ることで、バランスのいい“緊張感と落ち着き”を表現しています」と加藤氏は語る。ウォルナットは細めの無垢材にすることで、あえてムラ感を出し、彩りを加えた。ダイニングの照明は無駄を省いたミニマルなデザインが美しいBOCCIを、壁には山椒の木の墨絵を飾り付け、リビングには鮮やかな手織り絨毯(MUNICARPET)を敷いてコーディネート。インテリアのコンセプトは、モダン+シノワズリだそうだ。

「建築は、デザイナーだけの力で仕上げきれるものではないと考えています。インテリアコーディネーターやエクステリア、もちろん施工してくれる方々。みんなのアイデアや力が融合してこそ、本当にいい建物、オーナーが喜んでくださる住宅になるのだと日々、実感しています。私の役目は、みんなが持つ情熱を一つにまとめることです。建築をデザインすることと同じくらい、この力量がデザイナーには欠かせないものだと確信しています」。

こうして完成した“静寂の中に佇む家”は、オーナーの心を捉え、自然体で毎日を送ることができると喜ばれているそうだ。「とても静かで、葉が擦れあう音や川のせせらぎがほのかに聞こえる。心が無になる」。この言葉こそ、加藤氏が表現したかった人と建築、そして自然や素材の融合が見事になされたという、答えそのものであろう。

チーフデザイナー 加藤公太

チーフデザイナー 加藤公太

その場所が持つ性格や特性と、住まう人の感性・要望を素敵に美しく融合させること。それが設計・デザインを進めるうえでのポリシーだ。2007年 MG住宅設計コンペ 優秀賞を皮切りに受賞歴は数知れず。2018年、2019年と連続でグッドデザイン賞を受賞するなど、その開放的で心やすらぐ設計は、内外から高く評価されている。「なぜ、この場所に住まうのか。そこには住まう人の思いやこだわり、歴史が必ずある」。それらを深掘りし、丁寧に設計に落とし込むのが信条。そのために時間があれば気になる建築物を仲間と訪ね歩き、勉強を重ねている。チームワークを重視する加藤氏ならではといえよう。