Interview | ディテールを語る

作品「SPACE AGE」

地球、大気圏、そして宇宙
壮大な世界観が描かれた住まい。

シニアデザイナー 馬場純

お互いの感性が重なり合ったとき、
発想は豊かな音色を奏で始める

人と人とが持つお互いの感性を、ぴたりと符合させることはとても難しい。なぜなら、感性は目に見えないものだからだ。ならば絵で共有することが一番ではないか。休みが取れるごとに足しげく通い、ヨーロッパを中心にこれまで世界中で撮りためた建築物の写真は実に数万枚。そのアーカイブの中から、オーナーとの会話の中で端々に出てくるキーワードにマッチする記憶を選び出し、建物のイメージを整えていく。これが馬場氏のやり方だ。
「オーナーの心や頭の中にあるものを、私の心や頭に移植する。建築家としてのこだわりやスタイルはもちろんありますが、まずはニュートラルにオーナーの気持ちを受け止めることが、何よりも大事だと考えています」。

閑静な住宅街に建つ、窓がほとんど見当たらない個性的な住まい。そのコンセプトは、なんと“宇宙船”だそうだ。ホワイトを基調としたLDKに立つと、まさに地球を離れたかのような異空間を感じさせる。しかし、それと同時に、なぜかしら心にやすらぎも芽生えてくるのだ。
「オーナーと初めて会話したときに出てきた言葉は、ガレージのある家。自らの手で愛車を整備されることから、1階はほぼ作業スペースに当てたいということでした。後は、『面白いことがしたい』とおっしゃるだけで、まったくのノーイメージ。そこで私は、ドイツ・シュツットガルトにあるポルシェミュージアムの写真をお見せしたのです」。
まるで宙に浮いたかのような未来感のあるその建物を食い入るように見つめるオーナー。そして、ぽつりとひと言。「宇宙船のような家にしたい」。

扉を開けると玄関ホールがまっすぐに伸び、右手にガレージ、左手にはストレージ、DEN、そして階段を配置。ともすれば無機質に見えがちな空間を、ホール正面に設けた箱庭に竹を植えることで、憩いの場にもなる工夫が施されている。その一方で、壁にはパネルを組み込み、間接照明を仕込むことで宇宙ステーションのような雰囲気を生み出すことに成功している。ちなみにトイレは“大気圏” と見立て、雲柄のクロスを用いるなど、遊び心もプラスした。

サッシの存在を消すこと。
ディテールへのこだわりが、やすらぎを生む

2階は、普段の暮らしを楽しむ場として、宇宙船というデザインフィロソフィーを追求しながらも、あたたかみが感じられる空間に仕上げた。階段を昇ればLDKとウッドデッキが待ち受ける。ウッドデッキから流れ込む自然光が、室内空間をやさしく照らし、キッチンに立っていても、ダイニングで食事をしていても、リビングでくつろいでいても、その景色が心をほっとさせてくれるのだ。またリビングとウッドデッキを包むようにアールを施したオリジナルデザインのケーシング&ステップが配されているが、そのことにより、リビングやウッドデッキが、“異空間に存在する場所”というイメージを心に抱かせる効果を発揮している。

「ダイニングの上の梁は、構造上、どうしてもその一部が見えてしまうのですが、現場で確認すると天井と梁の境目がとても鋭角になることが分かりました。そこで梁をシルバーのシートでラッピングし、まるで鋭利なナイフのようなデザインに仕上げることにしました。建築は設計図だけでは分からないことがたくさんあります。私は現場に何度も足を運び、そこで得られた情報や感覚を意匠等に生かすように心がけています」と馬場氏。

“地球”である寝室は、樹洞の中で眠るというイメージで造作し、木目を生かして土っぽさも表した。天井部分はアール状になっているが、あえていびつに仕上げ、自然が生み出す美しさ、やすらぎを空間に与えている。
「未来感を出しながら、自然が生み出した素朴さ、やさしさを表現するためには、できる限り、現代の工業製品を目立たなくする必要があると考えました。たとえばリビングからウッドデッキを眺めるとき、そこにあるサッシの存在を消すための工夫やテレビを吊るすためのピクチャーレールを埋め込むなど、ディテールに徹底的にこだわっています」。

美しいイメージの具現化は、このようにして生まれ出るのであろう。「オーナーと私の2人の気持ちのコラボレーションが、この新しい表現を成立させた」と馬場氏はいう。しかしながらそこには、いうまでもなく馬場氏のアーキテクトとしてのこだわり、努力、そしてプライドが光る。潜在意識を引き出し、オーナーが当初、思いもよらなかった楽しい暮らしを紡ぎだす馬場氏には、未来を託したいという思いが込み上げてくる。

シニアデザイナー 馬場純

シニアデザイナー 馬場純

平成9年、ミサワホーム株式会社入社。商品開発部に5年、東京・神奈川のディーラーにて10年の設計実務を経て、センチュリーデザインオフィスに異動。今年で4年目を迎える。商品開発部時代には、従来のLDKの機能に捉われずに、1階を大広間にし、家族がそれぞれ好きなことをしながら空間を共有できる住宅「DEBUT 活人広間の家」を開発。同商品は、月間1000棟を超える大ヒットを記録した。得意分野は特にないというが、それは「どんなことにも常に新しい気持ちでトライする。自分の可能性に枠をはめたくない」との思いから来たもの。大工であった祖父に影響を受け、幼少の頃から建築物を見て回るのが大好きだったという、生粋の建築家である。

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