視覚的要素を検証し、デザインすることで
上質な暮らしが生まれる
へーベルハウスと言えば、重量鉄骨によるシステムラーメン構造に大きな特長を持つ。旭化成ホームズが展開する「フレックス レジデンス」は、その頑強な構造をベースに、光を巧みに暮らしの中に取り込みながら、より豊かな暮らしを提案してくれるハイエンドクラスブランドである。同社のTOKYO DESIGN OFFICEのデザイナーである荒川氏は、「心地よさを創造するための大切ないくつかの要素の中で、特に視覚的要素は大きいと考えています」と語る。
「たとえばスキップフロアにすることで空間に動きが出ますし、壁の上部を数十センチだけ抜くことで、向こうの部屋は見えないのだけれども、その先に何があるのかという期待感を膨らませることができます」。そういった仕掛けやゾーニングを成立させるうえで重要になってくるのが「光」なのだそうだ。どの時間帯に、どこから、どういう光が入って来るのかを徹底的に検証し、設計をスタートさせると言う。
「特に都市型住宅の場合、採り込める光はどうしても限られてきます。外部環境のさまざまな制約条件の中で、光をどう取り込み、どう見せるかによって、暮らしの豊かさや心地よさは大きく変わるのです。光は朝や昼、夕方、そして夏や冬などの季節によって表情を変えますし、家の配置や角度によっても変化します」。「直射光を入れるのか、または天空光を活用するのか。光の使い方には、とても緻密な計算とノウハウが必要です。また内部だけではなく、外部も含めてどのように見せていくのかを考え抜くことも重要。内と外とのバランスの取れた融合によって、美しいモダニズム建築が誕生すると考えています」。
敷地のポテンシャルを最大限に引き出す、
斬新な発想
<白金高輪 東京一軒家> 周囲には14階建てのマンションや高層ビルが建ち並び、日照時間は一日1~2時間ほどという環境の中で、いかにすれば心地よく暮らせるかに挑戦した意欲作である。
「日照時間という直射光が少なくても、どの土地にも必ず“空”はあります。白金高輪においては、まずトップライトを有効活用することにしました。そして内部空間から見て、空が見える場所を探して窓をつけるなど、暮らす人の心がやすらぐデザインを心掛けたのです。ただ、それだけではまだ光の量が足りません。いろいろと検証する中で、北側に建つ14階建てマンションからの反射光を活用することができないかと考えたのです」。「マンションのファサードが白と言うわけではありませんでしたが、思った以上に反射光は明るく、暮らしの中に十分に取り込むことができました。その光をウッドシャッターのスラットで天井面に反射させ、室内の奥にまで光を回すことに。光のすべてが美しいグラデーションを描き、とても心地いい空間となりました」 と荒川氏。アイデアを出し切り、検証を重ね、その土地が持つポテンシャルを最大限に引き出すこと。それが住まいづくりには最も大切なことだと語ってくれた。
「住まいづくりを進める中で、『南面に大きな窓を開けてくれ』というオーダーをいただくことがあります。一見、心地よさそうに思えるプランですが、実は決してそうとは限りません。隣家などからの視線が気になるなど、窓を大きくすることによる弊害が生まれる場合もありますし、その結果として、カーテンを閉め切って過ごすといった本末転倒な暮らしになっては意味がありません。思い切って南側は閉じて、別の角度や上から光を取り込むほうがもっと明るく、開放的になることは大いにあるわけです。そういった光の特徴や癖、暮らしの環境と言ったものもお伝えし、理解していただくことも、設計士として大事な役割だと感じています」。
狭小地の場合、隣家との関係でどうしても内部に光や風を採り込む仕掛けを施す“自己完結型”の住まいになりがちだが、荒川氏は外部環境にとってもプラスの影響を与える住まいづくりに力を注ぐ。「玄関先にシンボルツリーを植えるだけでも、周辺環境は美しく変化していきます。住まう人、街に暮らす人々が、みんな豊かになれる“解”を、これからも追い続けていきたいです」。